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近代イギリスにおける科学の制度化と公共圏
日本学術振興会
科学研究費助成事業
大野 誠
2014年4月
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現在
資金種別:競争的資金
本共同研究の成果公表の一つとして、研究分担者5名が研究成果を2015年7月4日に総合研究大学院大学(葉山)で開催された化学史学会年会シンポジウム「近代イギリスにおける科学の制度化:イギリス史研究の視点から」で発表した。すなわち、大野誠の「趣旨説明」に続いて、坂下史が「地方都市における農業協会の活動と草の根啓蒙」、石橋悠人が「国営天文台と科学の制度化: 19世紀のグリニッジ天文台を事例に」、高林陽展が「医学研究委員会から医学研究評議会へ: 大戦期の経験と医学研究の制度化」、奥田伸子が「ノーベル賞を受賞した「主婦」: 20世紀中葉イギリスにおける女性科学者と社会」と題して報告した。
次の研究分担者は,それぞれが関与する学会や学術集会で本テーマに関わる研究成果を発表した。松波京子は、オランダで開催された第14回国際18世紀学会、第8回日英歴史家会議、進化経済学会で、伊東剛史はKrakowで開催されたICC-TUFS Joint Seminarやイギリス女性史研究会、歴史学研究会近代史部会で、石橋悠人は政治経済学・経済史学会と19世紀学学会で発表した。
本共同研究内部でテーマについて理解を発展させる目的で、本年度は「公共圏」概念を取り上げ、国内の研究者2名を招聘して発表を行なってもらい、討論した。2016年1月9日に岩間俊彦(首都大学)氏が「討論による市民文化の形成: バーミンガムにおける討論団体1850-1890年、ジョン・ブライトンに関する討論を中心に」、3月13日に田中拓道(一橋大学)氏が「公と民の対抗から協調へ: 19世紀フランスの福祉史」について発表し、討論を行った。いずれも会場は愛知県立大学サテライトキャンパス(名駅)で、名古屋近代イギリス研究会にも参加を呼びかけた。
イギリスでの史料調査を坂下史、高林陽展、椿達也が実施し、国際学会での発表を松波京子、菊池好行が行った。
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近現代イギリスにおける身体観・疾病観・死生観 研究課題
日本学術振興会
科学研究費助成事業
2014年4月
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現在
資金種別:競争的資金
本研究の目的は、19世紀後半から20世紀前半のイギリスにおける身体観・疾病観・死生観の変化を分析することである。この時期のイギリスでは、コレラや結核といった感染症の死亡率が低下し、社会の広い層で相対的な健康が実感されつつあった。その結果、人々は、以前は気にしなかった微細な身体の失調を問題視するようになった。また、感染症ではなく、生活習慣病や慢性疾患へと関心を寄せていった。その具体的な事例として、本研究では、体温計の利用法について検討を進めてきた。体温計は1870年代に携帯できる小型商品が実用化され、一般家庭にも広がりを見せた。これによって、人々は日々の体調の変化を自ら観察できるようになったのである。この点に関する、2015年度の主たる研究成果は、2015年8-9月と2016年2-3月に現地調査を行い、その調査結果をもって、2016年医療の社会史学会(Society for Social History of Medicine)大会の口頭発表に応募し、採択となったことである。現地調査においては、ウェルカム医学史図書館、大英図書館、ハックニー史料館、北ヨーク史料館、ブーツ史料部門などで各種一次史料を収集した。特に重要な一次史料としては、ハックニー史料館所蔵の医学機器製造会社キャセラの発注台帳を入手した点である。そこで得られた体温計購入者のデータを基に、北ヨーク史料館では利用者の実態分析に踏み込むことができた。また、イギリス最大の医薬品小売店であるブーツの史料部門では、小売店の体温計販売戦略を検討した。以上によって、製造業者、小売店、利用者が織りなす、健康維持の力学が徐々に明らかとなってきた。以上で述べたような、近代ヨーロッパの健康意識にかかわる歴史学的研究は乏しく、その意義を強調することができるだろう。
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近代イギリスにおける感覚と感情
日本学術振興会
科学研究費助成事業
後藤 はる美, 伊東 剛史, 高林 陽展, 那須 敬, 赤松 淳子, 金澤 周作
2022年4月
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2027年3月
課題番号:23K21979
配分額:17160000円
(
直接経費:13200000円
、
間接経費:3960000円
)
2023年度は事例研究の推進に力を注ぎ、構成メンバーの各自が長期休暇中にイギリスでの資史料調査を実施するなどしてこの課題に取り組んだ。中間的な成果は研究打合せ会によって共有したほか、論文寄稿などを通じて部分的に公開した。
また、5月に来日した英語圏で感情や感覚の歴史に取り組む若手研究者のS・コーレ氏(ブリストル大学)との面会は、19~20世紀イギリスの感覚(とくに触覚)に関する近刊予定の単著の構想を紹介するオンライン講演会実施に結実した(7月)。氏とは引き続きコラボレーションの可能性について協議を進めている。さらに、代表者・後藤、分担者・赤松は、9月にロンドンで開催された東アジアブリテン史学会に参加し、イギリスおよび韓国のイギリス史研究者とも学術交流を行った。「イギリス史における時代区分」を総合テーマとする同学会からは、政治・経済的時代区分に必ずしも沿わない感情史における時代性の問題を考えるうえで有益な示唆をえた。年度後半には、日本において応用脳科学を専門とする研究者との対話会などを企画し、学際的な研究展開の基盤を見出し始めている。
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近代イギリスにおける感覚と感情
日本学術振興会
科学研究費助成事業
後藤 はる美, 伊東 剛史, 高林 陽展, 那須 敬, 赤松 淳子, 金澤 周作
2022年4月
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2027年3月
課題番号:22H00707
配分額:17160000円
(
直接経費:13200000円
、
間接経費:3960000円
)
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近代ヨーロッパにおける身体と環境のエコノミー
日本学術振興会
科学研究費助成事業
春日 あゆか, 梅原 秀元, 高林 陽展, 東風谷 太一, 福元 健之
2022年4月
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2026年3月
課題番号:23K21977
配分額:14040000円
(
直接経費:10800000円
、
間接経費:3240000円
)
身体や環境に公権力が介入するあり方は、近代以降複雑化している。特に、自由主義的社会では直接的な介入に一定の制約があり、人々の行動変容を促すような間接的な介入も重視される。その際、専門家などの知識が大きな役割を果たすことも多い。また、ここで見られる権力関係は公権力と個人の二極だけで説明できるものではなく、様々な中間団体・組織が関与する。先行研究でも様々な中間団体・組織の関わりが論じられてきたが、本研究では、これまで十分に研究がなされてこなかった経済主体(ビジネス)を扱う。
2023年度は4年計画の2年目にあたった。研究計画では、国内の学会・研究会で暫定的な成果を発表し、コメントを求め、研究に反映しつつ史料調査と分析を継続する計画になっている。研究代表者は国内の研究会(身体・環境史研究会)で身体や環境への介入に関する先行研究のレビューを行いつつ、これに関する事例研究としてイギリスの煤煙問題とそれへのビジネスの対応について暫定的な報告を行った。
また、身体や環境への介入におけるビジネスや市場の役割について、研究代表者と研究分担者の間での理解を深め、また研究の必要性を明確化するためにも、このテーマについての文献レビューを共同で執筆する計画を初年度に追加的に立てており、2年目である2023年度は、これに特に注力した。研究代表者は身体や環境への介入がどのようなアプローチでこれまで研究されてきたかについて文献調査を行い、ミシェル・フーコーに影響を受けた統治性に関する研究やリベラルガバナンスに関連する研究を調査した。これらの先行研究から、自由主義社会では身体や環境への間接的な介入が重要な意味を持つとの視点を得、ビジネスや市場との関係からさらに研究を進展させる必要性を確認した。
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近代ヨーロッパにおける身体と環境のエコノミー
日本学術振興会
科学研究費助成事業
春日 あゆか, 梅原 秀元, 高林 陽展, 東風谷 太一, 福元 健之
2022年4月
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2026年3月
課題番号:22H00705
配分額:14040000円
(
直接経費:10800000円
、
間接経費:3240000円
)
身体やその周辺環境に公権力が介入するあり方は、近代以降複雑化している。特に専門家の知識を主な根拠とし、人々が主体的に行動変容する(ことを期待する)介入のあり方は、人々の欲望と介入する側の思惑の一致によって社会に大きな変化をもたらしうる。ただし、そこにみられる権力関係は公権力と個人の二極だけで説明できるものではなく、様々な中間団体・組織が関与する。先行研究でも様々な中間団体・組織の関わりが論じられてきたが、本研究では、十分に研究がなされていない経済主体(ビジネス)を扱う。
2022年度は四年計画の初年度にあたった。計画では、それぞれが史料調査を行うなどして事例研究を進めることとなっている。計画通りにイギリス、ドイツ、ポーランドでそれぞれ史料調査を行い、ビジネスなどが人々の身体やその周辺環境に、食品や健康問題、環境問題を通じていかに介入したかに関連する史料を収集した。
また、それぞれの研究内容について議論するために、四度の研究会を開いている。それぞれの研究領域について、上述の課題と関連する先行研究を共有し、また事例研究を具体的にどのように進めていくかについて検討した。
先行研究を共有する過程で、共同研究者の間での理解を深め、また他の研究者に研究の必要性を認識してもらうためにも、本研究のテーマに関して共同でレビュー論文を執筆することとなり、準備を進めている。特に日本では、身体や環境への介入におけるビジネスの役割について、明示的に議論している研究はほとんどなく、関連文献についてまとめることは、身体や環境への介入についての議論を進めるうえで重要だろう。
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20世紀日本の医療・社会・記録-医療アーカイブズから立ち上がる近代的患者像の探求
日本学術振興会
科学研究費助成事業
鈴木 晃仁, 永島 剛, 廣川 和花, 宝月 理恵, 中村 江里, 光平 有希, 高林 陽展, 松岡 弘之, 橋本 明, 久保田 明子, 野上 玲子, 逢見 憲一, 後藤 基行, 福田 眞人
2021年4月
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2025年3月
課題番号:21H04343
配分額:41730000円
(
直接経費:32100000円
、
間接経費:9630000円
)
医療アーカイブグループが推進する小峰研究所資料調査では、医療記録および組織資料の内容特定を進めている。医療記録の大部分を占める症例誌に関しては約8割程度の人名特定を達成した。組織資料の調査からは、会計帳簿や出金伝票が部分的に残存することが分かり、1ヶ月の経理状況の把握につながるなど、組織運営の実態把握に向けて大きく前進した。
感染症・公衆衛生グループでは、「疾病と歴史」について上海の4大学から招待を受けての講演、「パンデミック時の日本および西欧における検疫をめぐる政府対応および社会の反応の比較史」等についての考察、「大正から昭和初期に於ける乳児死亡と感染症」や「スペインかぜ流行とわが国の衛生行政」等について分析と検討を進めた。
ハンセン病グループでは、国立療養所菊池恵楓園所蔵「患者身分帳」に関する共同研究を同園倫理審査委員会の許可を得て実施してきた。分担して主に1920年代の「患者身分帳」の読解と分析を進めた。共通フォーマットに匿名化したデータを入力して情報を共有し、1907年法下でのハンセン病療養所の入所者に関して、共同して多角的な分析を加えた。
精神疾患グループでは沖縄県公文書館および沖縄県立図書館が所蔵する戦後沖縄の精神衛生行政・公衆衛生看護に関する資料、京都癲狂院、東京府巣鴨病院、京都帝国大学ならびに東北帝国大学精神病学教室で行われていた音楽療法実践に関する資料、下総精神医療センターが所蔵する戦時下の国府台陸軍病院に関する資料を収集した。また、医療アーカイブズの保存と利用に関する議論を行った。
国際拠点形成グループでは、国外出張が難しいため日本国内の施設における患者の情報を記録するメカニズムを調査した。王子脳病院の病床日誌や、九州帝国大学、東京帝国大学の記録の違い、日本の国内の言語上の異なりを調査し、日本語、ドイツ語、英語などが用いられるパターンを調べた。
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個人識別技術と可読的身体の諸相に関する身体史的研究―近代的管理技術の由来と展開
日本学術振興会
科学研究費助成事業 基盤研究(B)
村上 宏昭, 磯部 裕幸, 宮本 隆史, 昔農 英明, 高林 陽展, 津田 博司, 堀内 隆行
2020年4月
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2024年3月
課題番号:20H01332
配分額:17420000円
(
直接経費:13400000円
、
間接経費:4020000円
)
研究の進捗により、個人識別技術の発展に旅券制度の形成が密接に関連することが明らかとなった。すなわち身体的特徴を基に個人を識別することを目的とした旅券は、その発展の過程で(1)可述的身体(言語で表現可能な身体)、(2)可視的身体(視覚で認識可能な身体)、(3)可読的身体(定量的に表象可能な身体)の三つの身体に志向してきたのであり、それだけにバイオメトリクス以前に個人識別技術を基礎づけていた歴史的心性を、当該制度から解明しうると思われる。
そこで本年(2021年)度は、近代ツーリズム史を専門とする森本慶太氏を新たに研究分担者として迎え、従来にない視点から本共同研究の射程の拡張を目指すことになった。本年に開催した二度の共同研究会において、森本氏は近代の旅券制度を支えた観光業の発展と変質について、第二次世界大戦期のスイスを事例として論じられた。そこでは観光の大衆化と制度化が具体的な組織を基に考察され、メンバーをして旅券制度の普及をもたらした歴史的文脈の理解の重要性を理解させた。
その他として、津田博司氏から20世紀前半における「生態学的人間生物学」の興隆に関する報告がなされ、宮本隆史氏から英領インドにおける「犯罪的部族」の管理と、その社会的構築性について報告された。また、昔農英明氏は現代ドイツの移民批判の言説を第一次大戦直後の「黒い汚辱」キャンペーンとの連続性で論じる視点を開示し、高林陽展氏は第一次大戦末期の「スペインかぜ」流行時における体温計の売上急増という現象に関して報告した。
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20世紀日本の長期療養型疾患の歴史―ハンセン病・精神疾患・結核の比較統合的検討
日本学術振興会
科学研究費助成事業 基盤研究(A)
鈴木 晃仁, 廣川 和花, 中村 江里, 光平 有希, 市川 智生, 高林 陽展, 橋本 明, 久保田 明子, 愼 蒼健, 佐藤 雅浩, 野上 玲子, 後藤 基行, 福田 眞人, 山下 麻衣, 松岡 弘之
2017年4月
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2021年3月
課題番号:17H00830
配分額:40560000円
(
直接経費:31200000円
、
間接経費:9360000円
)
2019年度は前年度に引き続き、A精神医療グループ、Bハンセン病グループ、C結核とその他の疾病に関するグループに分かれて研究を実施した。
A精神医療グループは各分担研究者により、①1952~1972年の琉球政府・沖縄県による精神病者監護・措置入院等に関する公文書の収集と分析、②明治末~大正期の精神疾患や精神病院に関する日本の新聞報道スクラップブック資料の分析、③国府台陸軍病院病床日誌の分析、④戦時精神医療の当事者・家族・医療関係者への聞き取り調査、⑤戦前の日本における音楽療法実践の史料調査・分析、⑥精神医療史に関する国際的な研究動向の精査を行った。また、(1)九州大学精神科所蔵の歴史的診療録の保存措置と一部デジタル化、(2)肥前精神医療センター及び下総精神医療センター所蔵の歴史的診療録・運営記録の保存状況調査、(3)(財)小峰研究所所有の資料群(王子脳病院等)の概要調査をグループ全体の研究活動として行った。その結果、多数の論考や学会発表などの成果を得た。
Bハンセン病グループでは、昨年度に引き続き、国立療養所菊池恵楓園(九州(癩)療養所)の1910~1919年の退所者・死亡者約240名に関する同園所蔵資料を、同園における研究倫理審査委員会の許可の下に分担して分析した。入所者個々の背景やライフヒストリーと、入所から退所・死亡に至るまでの園内での処遇を対比しつつ明らかにした。今後さらに順次時期をさかのぼり分析を進めていく。C結核とその他の疾病に関するグループは、[1]日本に置ける府県別に見た時の結核による死亡の分布、[2]いくつかの府県に関してさらに細かい市町村別の結核の罹患の分布、[3]台湾と朝鮮に関する結核に関する死亡と罹患のデータ、[4]精神病院への長期入院にともなって結核となり死亡していく過程の観察という四つの作業を行った。
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20世紀西洋精神医療の転回-「地域精神医療」の政治経済的意義
日本学術振興会
科学研究費助成事業
高林 陽展
2009年
-
2010年
課題番号:09J07599
配分額:1300000円
(
直接経費:1300000円
)
本研究は、20世紀中葉のイングランド精神医療における「地域医療」及び「脱施設化」を検討することを目的とし、研究活動を進めてきた。平成22年度においては、4月以降、国内での文献の収集と読解、論文の執筆を中心に研究を実施した。平成21年度に学術雑誌に投稿し、審査結果が得られた論文「第一次世界大戦期イギリスにおける戦争神経症」については、修正の上、7月に再投稿した。前年度二度にわたって実施した英国ロンドンでの現地史料調査(平成21年8月29日から9月12日、平成22年2月28日から3月17日)において、国立公文書館(National Archives)、ウェルカム財団医学史図書館(Wellcome Trust Library for Understanding Medicine)、大英図書館(British Library)で入手した史料を用いて数点の論考を準備した。その結果、査読論文「戦争神経症と戦争責任-第一次世界大戦期及び戦間期英国を事例として」が『戦争責任研究』から刊行され、査読論文「精神医療専門職の再検討-20世紀初頭イングランドにおける精神科医の職業構造を中心に-」が『精神医学史研究』にて平成23年度に掲載決定、査読論文「精神衛生思想の構築-二〇世紀初頭イングランドにおける早期治療言説と専門家利害-」が『史学雑誌』にて平成23年度に掲載決定となった。上記のように、平成22年度においては、主として研究成果の公表作業を進めることを主眼として、執筆活動を中心に行い、重要な成果を得た。
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20世紀中葉イングランドにおける精神医学の脱施設化に関する研究
日本学術振興会
科学研究費助成事業
高林 陽展
2009年
-
2009年
課題番号:21720275
配分額:1430000円
(
直接経費:1100000円
、
間接経費:330000円
)
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